この記事ではこんな疑問に答えます。
障害者が支援を受けながら働ける場として、就労継続支援施設があります。
これはかつて作業所と呼ばれていたこともあり、複数の障害者を集めて、比較的簡単な仕事をしてもらい賃金(工賃)を支給する施設です。
この就労継続支援の利用者に対して、一般就労への移行を目的とした目標値が設定されるそうです。
これにともない、就労継続支援を利用しながら働いていた人の中から、一般就労へと働き方を変える障害者が増えることが予想されます。
しかしこれは障害者にとって、本当に良いことなのでしょうか?
今回はこの問題について考えてみました。
たちばな
統合失調症の当事者のたちばなが執筆しています。デイケア・就労移行支援・就労継続支援A型・障害者雇用・クローズ就労など様々な働き方を経験し、現在はフリーランスのWeb制作者として活動しています。Web制作は1999年から始めたベテラン。スキルを生かして統合失調症などの障害者でも自分らしく働くための情報を発信中です!
・就労継続支援A型は雇用契約を結ぶ、B型は雇用契約を結ばない
・就労移行支援で就職が決まらないと就労継続支援に移行するケースがある
・就労継続支援B型から一般就労は難しい
目次
就労継続支援とは
就労継続支援施設にはA型とB型の2種類があります。まずはこの2つの違いから確認しましょう。
法律に照らし合わせて詳しく解説すると難しくなるので、ここではわかりやすく簡単に紹介します。
就労継続支援A型とは
就労継続支援A型とは、以下の2つの特徴を持つ障害者のための働く場です。
・障害者と雇用契約を結ぶ
・最低賃金を保証する
要するにアルバイトみたいなものだと思ってください。
「最低賃金を保証する」というよりも、「原則、最低賃金で働く職場」というのが現状です。
最低賃金を保証するということもあり、就労継続支援A型で働いている障害者は最低限の収入が得られる程度の仕事をしています。
しかしそれでも、民間企業で働いている障害者からすると、収益性の低い簡単な仕事内容である場合が多いです。
就労継続支援B型とは
就労継続支援B型とは、以下の2つの特徴を持つ障害者のための働く場です。
・障害者と雇用契約を結ばない
・最低賃金を保証しない
就労継続支援B型では障害者と雇用契約を結びません。
また、最低賃金も保証されず、就労継続支援B型で働いている障害者は健常者からは考えられないような時給で働いています。
時給で言うと、だいたい100円から300円程度です。
また雇用契約を結ばないため、就労継続支援B型で働くことを辞めても、失業保険などは貰えません。
就労継続支援B型で働いている障害者は、福祉施設が運営しているカフェの店員や農業、軽作業など、比較的重い障害者でもこなせるような仕事をしています。
障害者が就労継続支援を利用するまでの経緯
障害者が就労継続支援を利用するまでの経緯として、「就労移行支援を利用したが一般就労できなかった」というケースがあります。
就労移行支援とは、障害者に原則2年間の就労訓練を行い、一般就労を目指すという施設です。
就労移行支援はあくまでも訓練が目的なので、就労継続支援のように賃金(工賃)は貰えません。
就労移行支援で提供している訓練内容は、事業所によって異なりますが、多くは以下の5つの訓練を行っていることが多いです。
・ビジネスマナー
・軽作業
・パソコン
・履歴書、職務経歴書の書き方
・面接の練習
このような訓練を行い、最終的に一般就労を目指します。
ところが、就労移行支援で訓練しても、一般就労に結びつかないケースがあります。
そのような障害者の受け入れ先として機能しているのが、就労継続支援というサービスなのです。
一般就労を目指す障害者を増やすのは妥当
冒頭で紹介した記事を深掘りします。記事の内容を見てみましょう。
障害福祉サービスの就労継続支援A型、同B型の利用を経て一般就労に移る人の数に目標値を設ける。23年度までにA型は19年度実績の1・26倍以上、B型は1・23倍以上とする方針。都道府県・市町村はこの指針に沿って第6期障害福祉計画、第2期障害児福祉計画を20年度中に作る。
記事で書かれているように、A型やB型の利用者から一般就労へ移行する人数に目標値が設けられます。
さきほど紹介したように、就労継続支援の利用者は一般就労が出来なかったから、就労継続支援を利用しているという経緯があります。
そして就労継続支援では就労移行支援のような2年間という利用期間が設けられていません。
つまり障害者にとって、永久就職先として機能しているのが現状です。
国はこの現状を変えたいと思っているのでしょう。
さらに法律では、就労継続支援を利用している利用者の数や働いている時間に応じて、国からお金が支給されるという仕組みがあります。
つまり就労継続支援を利用している人が、就労継続支援を卒業して一般就労すれば、国が支給するお金が削減できます。これにより社会保障費も削減できるでしょう。
ちなみに就労継続支援も、本来は一般就労に向けたステップアップとしての施設という目的があります。
このような事情により、就労継続支援施設から一般就労へと移行する障害者を増やすというのは、妥当であるように感じます。
B型利用者の一般就労の困難性
しかし就労継続支援を利用しているような障害者が、一般就労して働き続けることができるかどうか、疑問を感じます。
特に就労継続支援B型を利用している人は、障害の程度が重いことが多く、企業で働きたいという希望があっても、企業が障害に対する十分な配慮ができない可能性があります。
私は地元の就労継続支援施設で5年間、A型の利用者として働いてきました。
同じ職場にはB型の利用者もいましたが、一般就労は難しいのではないかと感じる利用者が多かったのも確かです。
障害特性の面でも、業務を遂行するためのスキル面でも、B型の利用者では一般就労で働くのは難しいと思われます。
そもそもB型の利用者が一般就労を望んでいないこともあります。
結局、制度を変えても、仕事をする障害者の意識が変わらないと、不幸な障害者が発生するだけでしょう。
一般就労は理想な働き方の1つ
障害者にとって一番の幸せは、「障害に配慮しながら十分な賃金を貰って幸せに働けること」であるのは間違いありません。
しかし多くの企業は障害者の受け入れに積極的ではなく、特に中小企業では法定雇用率を満たす努力すらしていない企業があるのも現状です。
障害者に対する偏見の視線も無視できません。特に精神障害者は周囲から理解を得られにくいという現状もあります。
それでも企業に雇用される一般就労は、障害者にとって理想的な働き方の1つなのは間違いありません。
2018年4月に数値としての法定雇用率の見直しが行われましたが、これに合わせて今回の就労継続支援からの一般就労への目標値が設定されたのではないかと感じてしまいます。
まとめ
「障害者は障害がある人」という枠組みで捉えられがちですが、希望する生き方、やりたい仕事、そして今現在できることなど、障害とは無関係に様々な人がいます。
最近では働き方改革や副業解禁などの制度変更に合わせて、多様な働き方が広まりつつあります。
障害者にとっても一般就労という企業に雇用される働き方だけでなく、起業やフリーランスになるなどの働き方が広まっても良いのではないかと思います。
今回の厚生労働省の決定で、就労継続支援で働いている人に対して、一般就労への移行を促されるケースが増えてくると予想されます。
もし、これを読んでいあなたが就労継続支援を利用しているのであれば、一度これからの働き方について考えてみるのも良いかもしれません。