この記事ではこのような疑問にお答えします。
障害者手帳という言葉を知っていても、どのような人が持てるのか、どのように使えるのかをご存じでない方も多いでしょう。
障害者手帳とは身体障害・精神障害・知的障害の障害を抱えている方に交付される手帳のことです。障害者手帳を持っていることで、さまざまな支援を受けられます。これらの支援を使いこなすことで、グッと生活が便利になるんですよ。
この記事では、障害者手帳の種類やメリット、デメリットなどを詳しく解説します。ぜひ最後までご覧ください。
立花浩紀
統合失調症の当事者の立花浩紀が執筆しています。デイケア・就労移行支援・就労継続支援A型・障害者雇用・クローズ就労など様々な働き方を経験し、現在はフリーランスのWeb制作者として活動しています。Web制作は1999年から始めたベテラン。スキルを生かして統合失調症などの障害者でも自分らしく働くための情報を発信中です!
・障害者手帳には3つの種類がある
・障害者手帳を使うとさまざまな経済的な支援がうけられる
・障害者手帳のデメリットはほとんどない
障害者手帳の種類
障害者手帳とは、「身体障害者手帳」「精神障害者保険福祉手帳」「療育手帳」の3つを総称したものです。
障害者にとって障害者手帳の取得は任意ですが、取得するとさまざまな支援を受けることができ、障害者が生活しやすくなります。
これら3つの障害者手帳には障害等級が設けられており、障害の重さによって区分されています。障害等級の違いによって、受けられる支援の内容も変わります。
【身体障害】身体障害者手帳
身体障害者手帳は身体障害のある方に交付される手帳です。交付の対象者は次の通りです。
・視覚障害
・聴覚や平衡機能の障害
・音声機能、言語機能、そしゃく機能の障害
・肢体不自由
・心臓やじん臓、呼吸器の機能の障害
・ぼうこうや直腸の機能の障害
・小腸の機能の障害
・ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能の障害
・肝臓の機能の障害
障害等級は1級から7級までありすが、手帳が交付されるのは6級以上の障害者です。7級となる障害は単独では手帳の交付対象となりませんが、7級に該当する障害が2つ以上ある場合に手帳の交付対象になります。
【精神障害】精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は精神障害のある方に交付される手帳です。交付の対象者は次の通りです。
・統合失調症
・うつ病、双極性障害(躁うつ病)などの気分障害
・非定型精神病
・てんかん
・中毒精神病
・高次脳機能障害
・発達障害
・その他の精神疾患 など
障害等級は1級から3級までで、「精神疾患の状態」と「能力障害の状態」の2つの基準で等級が決定します。
なお、現在は発達障害のある方も精神障害者保険福祉手帳の交付対象となることがあります。
【知的障害】療育手帳
療育手帳は知的障害のある方に交付される手帳です。交付の対象者は次の通りです。
・児童相談所または知的障害者更生相談所で知的障害であると判定された人
18歳未満の場合は児童相談所、18歳以上の場合は知的障害者更生相談所での判定が必要です。
ほかの障害者手帳とは異なり、療育手帳の等級区分は自治体によって異なります。
障害者手帳のメリット
障害者手帳を取得することで、さまざまな支援が受けられるメリットがあります。
【メリット1】障害者割引の対象になる
障害者手帳を持つことで、障害者割引のあるサービスの対象者となります。
たとえば、NHKの受信料やバスや電車などの交通機関の運賃、映画館やスポーツ施設の利用料など、障害者割引を受けられるサービスは数多くあります。
【メリット2】所得税・住民税の障害者控除の対象になる
障害者手帳を持つことで、所得税や住民税の障害者控除の対象となります。
障害者控除とは、働いている本人や配偶者、扶養家族に障害がある場合に受けられる税制上のメリットのことです。障害者控除があることで、支払うべき所得税、住民税の金額を軽減されます。
障害者控除の具体的な金額は以下の通りです。
所得税 | 住民税 | |
障害者 | 27万円 | 26万円 |
特別障害者 | 40万円 | 30万円 |
同居特別障害者 | 75万円 | 53万円 |
特別障害者とは、次のような重度の障害のある方です。
・身体障害者手帳に身体上の障害の程度が一級又は二級と記載されている方
・精神障害者保健福祉手帳に障害等級が一級と記載されている方
・重度の知的障害者と判定された方
・いつも病床にいて、複雑な介護を受けなければならない方 など
同居特別障害者とは、「特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族で、納税者自身、配偶者、その納税者と生計を一にする親族のいずれかとの同居を常況としている人」のことです。
【メリット3】医療費の助成を受けられる
障害者手帳を持つことで、医療費の助成を受けられます。
医療費の助成制度は自治体によって異なりますが、たとえば、心身障害者医療費助成や重度障がい者医療費助成などです。これらの医療費の助成制度を受けることで、一部の自己負担額を除く医療費が助成されるという金銭的なメリットがあります。
【メリット4】障害者雇用の対象になれる
障害者手帳を持つことで、障害者雇用の対象となれます。
障害者雇用で就職することで、体調や通院など障害に配慮をうけながら働くことができます。
障害者を雇用する企業にとっても、障害者を雇用しているという実績としてカウントできるというメリットがあります。
なお、障害者手帳を持っているからといって、必ず障害者雇用で就職しなければならないということはありません。会社に障害を知らせないクローズ就労という働き方も選択できます。
【メリット5】就労支援サービスを受けられる
障害者手帳を持つことで、就労移行支援や就労継続支援などの就労支援サービスを受けられます。これらは障害者手帳がなくとも利用できるサービスですが、障害者手帳があると手続きがスムーズになります。
【メリット6】失業保険の受給期間が長くなる
障害者手帳を持つことで、失業保険の受給期間が長くなります。
失業保険を受給する際、障害者は「就職困難者」として扱われます。一般障害者と就職困難者とでは失業保険の受給期間が異なります。
被保険者であった期間 | 1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
一般離職者(全年齢) | ― | 90日 | 120日 | 150日 | ||
就職困難者 | 45歳未満 | 150日 | 300日 | |||
45歳以上65歳未満 | 360日 |
就職困難者は一般離職者と比べて、失業保険の受給期間が大幅に増えています。仕事をしていた期間が1年未満でも失業保険を150日間受給できるのは大きなメリットでしょう。1年以上勤務していた場合も、45歳未満は300日、45歳以上65日未満は360日の受給期間が得られます。
障害者手帳のデメリット
数多くのメリットがある障害者手帳ですが、人によっては次のようなことがデメリットと感じられるでしょう。
【デメリット1】障害者として扱われてしまう
障害者手帳を持つことで、自分が障害者として扱われます。特に精神障害は、社会から偏見のまなざしを受けることが多く、心理的に負担を感じる場面もあるかもしれません。
【デメリット2】定期的な更新が必要
障害者手帳は定期的な更新が必要です。これは現状の障害の状態を判定して、障害の再認定を行うためです。
身体障害者手帳は、手帳に有効期限がある場合を除き、原則として更新は不要です。精神障害者保険手帳は有効期間は2年間であるため、2年後とに更新が必要です。療育手帳は、年齢に応じて2年から10年ごとの更新が必要です。
※実際にはデメリットはほとんどない
障害者が障害者手帳を持つことのデメリットを上げましたが、実際のところ、それほど大きなデメリットはありません。
障害者手帳の取得は任意ですし、障害者手帳のメリットを活用する、しないも本人の自由だからです。
現在、会社勤めをしている方が新たに障害者手帳を取得したからといって、勤務先に伝える必要もありません。
自分にとって必要な支援を受けやすくする道具として、障害者手帳を活用すると良いでしょう。
障害者手帳の取得に関する質問と回答
障害者手帳の取得に関する質問と回答を紹介します。
障害があったら絶対に手帳は必要?
障害があっても手帳は必ずしも必要でもありません。しかし社会的なサービスやサポートを受けるのに、役立つ場面があるので、もし自分が必要であれば取得を検討すると良いでしょう。
会社に障害者だとバレてしまう?
障害者手帳を取得しても、自分から開示しなければ会社に障害者であるとバレることはありません。
障害者手帳を提出する場面は、公的な機関や障害者割引などのサービスを受ける施設であり、機密性が守られているはずです。
ただし障害者控除を受けている場合、年末調整のタイミングでバレる可能性があります。
給料が低くなってしまうのでは?
障害者手帳を利用して障害者雇用で採用された場合、健常者の社員と比較して給料が少なくなってしまうことは多々あります。
給料が低くなる原因は、
・勤務時間が短い
・非正規雇用である
・時給が低い
などが考えられます。
しかし、障害者雇用であっても、正社員登用されたり、勤務時間の延長、実力が認められて時給が上がった時に給料が増えることがあります。
また、障害者雇用の給料は会社によって大きく異なるため、給与水準の高い会社へ転職することで、給料を大幅に上げることも可能です。
もう2度と健常者に戻れない?
障害者手帳には返納という制度があります。これは本人の意思で障害者手帳の利用をやめることであり、役所に行って書類を書くだけで手続きが完了します。これは障害者手帳の利用を自主的にやめることであって、自分が健常者と同じ状態になったとは限りません。
また障害の状態が軽快して、主治医から更新不要と判断された場合、障害者手帳の返還が必要となります。この場合、障害を有しない状態になったとみなされるため、健常者と同じ状態になったと捉えることも可能です。
障害者手帳を上手に活用しよう
障害者にとって障害者手帳はさまざまな支援が得られる便利なサービスです。特に障害者雇用で働きたい障害者は障害者手帳が必要です。働き方の選択肢を大きく広げることができます。
また障害者手帳を持っていない方は、少しでも生きやすくするために、障害者手帳の取得を検討してはいかがでしょうか。